朝食の偶然の②

 にっちもさっちもどうにもブルドック(このネタが通じる若者がいたら握手したい)状況に陥った私と姉だったが、ふと実家で来客の相手をしている母の姿が頭をよぎった。

 「母に電話しよう」と、どちらからともなく口にし、母に連絡をし状況を説明した。餌で釣ればよいのでは、という話になり、餌と水、子猫を入れるバスケットを持ってくることを母に頼んだ。電話を切り、ひとまず安心…と落ち着かないのがこの姉妹の性分で、「でも家からここまでだいぶ遠いよ。時間かかるよ。」と口々に言い合い、次の打開策を考え始めた。

 スーパーに餌を買いに行けばいいのでは、という発想に一度至ったが、スーパーまでは徒歩で約20分、車だとすぐだが、動かせない。歩くとなると地味に遠く、往復で40分かかるとなると母が着く方が早い。周囲にはコンビニもなく、だだっ広い海が目前に広がっているだけだ。そこら辺の民家に突入し、「猫の餌を!」と状況説明するのも、好手とは言えない。

 色々と悩んだ末、我々は普段お世話になっている車屋の担当者に電話をかけ、猫が隠れた部分とエンジン部分が繋がっているのか、動かしても大丈夫だろうか、ということを聞いた。開口一番の「猫が…」というこちらの発言に対し、担当者の激しい動揺と「は?」という疑問いっぱいの表情が、電話越しにヒシヒシと伝わってきた。

 我々の訳の分からない問いかけに対し、状況を把握した担当者の方は、私たちを馬鹿にすることも突き放すこともなく、エンジン部分とは繋がっていないこと、エアコン部分とは繋がっていること、動かしても支障は恐らくないことを丁寧に説明してくれた。それに加え、餌でつってみたらどうか、という猫救出のためのアドバイスも添えてくれた。本当に感謝しかない。この恩は生涯忘れないだろう。私が大学を卒業し、車が必要になったらその車屋で買おう。私は密かに胸に誓った。

 担当者の方のアドバイスを胸に、姉がゆっくりと車体を動かしてみた。特に異音がすることもなく、「よし、このまま一度スーパーに行こう。」と姉が口にし、我々はスーパーへと向かった。車が動いたことに驚いたのだろう、数分後、子猫はようやく穴からひょこっと頭を出した。一瞬にして車内は歓喜に包まれた。また下手に捕まえようとすれば先ほどのような厄介な状況になるかもしれないので、そのまま手は出さず、子猫を見守った。子猫は助手席のイスの下に隠れ、丸まった。

 母に移動したことを連絡し、スーパーで合流した。相当にお腹が空いていたのだろう、子猫は姉が買ってきた餌をがっつき、秒で平らげた。子猫は特に暴れる様子もなく、先ほどのように身をよじらせることもなかった。母は片づけがあるから、と実家に戻り、我々はバスケットに猫を入れ、病院へと急いだ。